フィラリア症とは
蚊が吸血することで犬から犬へ移る寄生虫です。主に肺動脈(心臓から肺へ向かう大血管)に住み着き、成虫になると長さ20~30cmの細長い「そうめん」のような虫に成長します。
蚊の吸血によって犬の体内に入ったフィラリアの幼虫は皮下や筋肉内で2~3ヶ月かけて成長します。その後、成長したフィラリアは血管内に侵入し、心臓・肺動脈へ移動します。感染後6~7ヶ月かけて成虫になりミクロフィラリア(mf:フィラリアの赤ちゃん)を産出します。このmfを蚊が吸血と一緒に吸い込むことで、次の犬へと伝播していきます。
フィラリアのお薬が有効なのは「蚊に刺されてから2~3ヶ月間の、幼虫の期間のみ」です。成虫になると予防薬では駆除することができません。
ですので、定期的な予防を忘れないようにしましょう。
フィラリアに感染した犬はどうなるの?
フィラリアは肺動脈や心臓に寄生するため、心臓の動きを低下させ、全身の血液循環がうまくいかず、疲れやすくなったり呼吸が苦しくなったりします。時間が経過すると、肝臓や腎臓にも影響が及び、呼吸困難とともに死に至ります。
このように命に係わる病気ですが、感染してもしばらくは何の症状も出ません。感染成立から数年経過してから症状が出ることが多く、症状が出たときにはすでに重症というケースも少なくありません。
初期症状:咳をする、呼吸が早く浅い、痩せてくる、食欲不振、運動すると疲れやすい
末期症状:貧血、血尿、腹水貯留(お腹がポッコリでてくる)、呼吸困難
気になる症状が出ている場合にはすぐに病院へご相談ください。
予防が一番大切!
フィラリアに感染した場合の治療方法は大きく3つに分けられます。
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薬剤による成虫駆除
薬剤により死滅した虫体が肺の血管に詰まったり、アナフィラキシーショックを起こしたりとデメリットが多く、肝心の薬剤も製造中止になってしまっているので現在はこの治療方法を選択することはほとんどありません。
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外科手術(吊り出し法)
手術によって直接フィラリア虫体を取り出す方法です。全身麻酔下で頸静脈を切開しなければならず、すでに心臓に負担を抱えたワンちゃんにはリスクの高い処置となります。
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虫の寿命を待つ
一番リスクの少ない方法です。
再感染をしないように予防薬の投与を続けながら成虫の寿命(約5~6年)を待ちます。フィラリア予防薬は成虫には著効を示さないため、比較的安全に使用することができます。
しかし、フィラリアが心血管系に寄生している限り、心臓への負担はかかり続けるため心臓のケアも同時に行う必要があります。
いずれの治療方法を選択しても、一度傷ついた血管や影響を受けた臓器は決して元通りになりません。
成虫が体内からいなくなった後も、ダメージを抱えたままの生活となります。
一昔前とは異なり、現代のフィラリア症は、しっかり予防ができていれば感染を防げる病気です。
当院の院長はフィラリアに感染したワンちゃん苦しみながら最期を迎える場面に何度となく遭遇してきました。皆様の愛犬がそうならない、させないために、確実に予防をするようにしてください。
当院ではフィラリア症の通年予防をご提案しています
近年までのフィラリア予防は、春から冬が始まるまで、5月から12月におこなっていただくことが通説でした。
昨今では、地球温暖化による蚊の出現シーズンが伸びたことによる投薬期間の延長や米国犬糸状虫学会(AHS)の推奨もあり、フィラリア症の通年予防が提唱されるようになってきました。
当院では開院当初よりフィラリア症の通年投与をご提案しています。
通年予防におけるメリットとデメリットをご紹介しますので、ぜひご検討ください。
メリット① 「飲み忘れ」を防げる
時期によって飲んだり飲まなかったり、いつから始めるんだっけ?と思案していたら夏になってしまった、ノミ・ダニのお薬と混同してしまった、などのお話をよく耳にします。
通年投与にすることで、定期的なリズムで予防することになるので、飲み忘れを防げます。
メリット② 病院での待ち時間が短くなる
フィラリア予防において、休薬期間の後にはお薬の投与前にフィラリア検査が必要となります。
しかしながら、動物病院は1年の中で春が最も混雑すると言われています。狂犬病・混合ワクチン・フィラリア予防に加え、一般診察も重なると待合室はいっぱいになってしまいます。
通年投与では、この時期のフィラリア検査は必要なくなりますので、混雑した病院で待たなければいけないというストレス(人にとってもワンちゃんにとっても)は軽減されます。
※ただし、1年のうち1回はどこかのタイミングで検査を受けていただくようお願いいたします。
飲ませたはずのお薬を吐いてしまった、お腹の調子が悪くてお薬の成分が吸収されなかった等の理由で、毎月欠かさずお薬を飲ませていても、いつの間にか感染してしまっていることもあります。(錠剤タイプ・チュアブルタイプの場合)
しかしながら、いいことばかりではありません。
デメリット① 本来は予防が不要な期間もお薬の投与が必要になる
ご存じのように、フィラリア症は蚊が媒介しますので、蚊がいない時期に関しては予防の必要はありません。ですので、蚊が出ていない時期のお薬は体にとって不要なものです。体に害があるわけではありませんが、不要なものをわざわざ投与することに不安を感じる方には、通年投与をおすすめいたしません。
デメリット② 冬の間も費用がかかる
本来であれば休薬期間であるはずの1月~3月の間にも、お薬を飲ませるための費用が発生します。当院で通年予防を行っていただいている患者様に関しては、健康診断と合わせてのフィラリア検査を割引いたしますが、普段お使いになっているお薬の種類によって差額が異なりますので、気になる場合にはスタッフまでお問い合わせください。
通年予防はフィラリア検査を全く受けなくても良いというものではありませんが、病院が比較的空いている時期(秋~冬)にフィラリア検査をすることで、お待ちいただく時間を短くすることができます。
また、フィラリア検査には採血が必須なのですが、必要量はたった数滴です。そのためだけに採血をするのはかわいそうかしら?という飼い主様には同時の健康診断をおすすめします。採血量は増えますが、1回の採血でフィラリア検査も内臓検査も可能なので、ワンちゃんへの負担を少なくすることができます。
秋から冬にかけては検査センターのキャンペーンシーズンなので、院内で検査するより大幅に経済負担を減らすことにも繋がります。
上記、メリット・デメリットをよくご検討いただいた上で、生活環境にあった予防方法をご選択ください。
種類がたくさんありすぎて、どんなお薬を使ったら良いか分からないなど、フィラリア予防に関して疑問や不安をお持ちの飼い主様がいらっしゃいましたら、お気軽にご相談ください。
フィラリア予防の落とし穴
獣医師も看護師も飼い主様も、みな一様に「フィラリア予防」と呼んでいますが、正確には「フィラリア駆虫」なのをご存じですか?
実は、フィラリアのお薬は「予防薬ではなく駆虫薬」なんです。
フィラリアは蚊に刺されることで体内に侵入してきますが、この段階では体の中に駆虫効果のある薬剤は残っていません(一部の薬剤を除く)。駆虫薬を飲むことで体内の薬剤濃度が上がり体内に潜んでいた虫体が死滅します。なので、「蚊に刺される→投薬→駆虫」が正しい流れです。
このようにフィラリア予防にはいくつかの落とし穴が潜んでいます。ひとつづつ穴を埋めていって、完璧なフィラリア予防を目指しましょう。
- 室内飼いだから大丈夫でしょ?(マンションだし…お散歩に行かないし…)
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たとえマンションの高層階であっても、人と一緒にエレベーターで昇ってくることもあります。また、キャリーやカートに乗せてのお散歩でも、外出するのであれば蚊に刺されるリスクは当然高くなります。室内飼いだからと油断せず、しっかり毎月予防してあげましょう。
- もう蚊がでる時期ではないし、投薬やめてもいいよね?
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肌寒くなってきた季節こそ、フィラリア予防の大事な時期です。
上記で示したように「蚊がいなくなってから1か月後まで」が正しい予防期間です。
早めに予防を終えてしまうと、最後の投薬後に刺されてしまった場合の駆虫がなされません。最近は地球温暖化の影響もあり蚊の活動期間は長くなっています。予防期間は各製薬会社さんが算出してくれているので、参考にしてください。
DSファーマアニマルヘルス 関東エリア 犬のフィラリア感染期間の目安
https://filaria.jp/html/hdu/kanto/index.html#saitama
- 病院での検査って、毎年やらなくてもいいんじゃない?
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万が一、フィラリアに感染した状態でお薬を与えると、体内のミクロフィラリア(幼虫)が急激に死滅することで毛細血管に詰まったり、虫体の分解によるアナフィラキシーショックが起こったり、「命を落とす可能性」があります。なので、昨年のお薬が余っていたとしても必ず検査を受けてから投薬を開始してください。